晴明の悪点
天冥の行動は早かった。
素早く長い腕を伸ばし、小物の中の一匹、鳥の嘴が生えた一つ目の小さな赤い小鬼の細い首をひっつかみ、
軽々とそれを持ち上げる。
「ぎゃあ」
小鬼が赤子の声で悲鳴を上げる。
「誰が小僧じゃ、俺はもう三十路ぞ。
人の耳元でごちゃごちゃと言うでないわ、うるさい」
天冥は冷たくひと睨みしてやり、凍りつく妖どもに一瞥をくれる。
「おい、こやつ、我らが見えるらしいぞ」
「鬼がみえるのか」
妖どもに怯えの色が浮かんだのを、天冥は見逃さなかった。
心のどこかで、言葉にしがたい達成感や優越感が湧き出る。
心の闇が大きいほど、天冥のこういうことをした時の満足感が大きい。
「陰陽師、よ」
びくりと肩を震わせた妖に、いっそう意地悪く言う天冥であったが、今日は一段と優しくない分、一段と飽きやすい。
普段から貴族が怯える顔を楽しく眺めているだけあって、たかだか小物の妖をいたぶったところで、
こやつらはどうせ人を食ったことさえなさそうだから、やりがいというものがない。
本当にいたぶりがいがあるのは、ああいう屍の上に立つ傲慢な者どもだ。
天冥は持ち上げた手をおろし、地に小鬼の足がついたところで手を放してやった。
「よかったな妖、今日は誰も傷つける気にならぬ」