晴明の悪点
「・・・そなたは、百鬼か?」
迫り来る影が、さらにその速度をあげた。
ぶわり、と砂塵が乱舞する。
姿を現したのは、あの百鬼である。
鴉の両翼が閉じられた時には、すでにそれは僧の姿に戻っていた。
清明の目の前に現れた百鬼は、忌々しげに清明をみ、そして更に忌々しそうに蓬丸を見た。
対する蓬丸も、すでに飛び掛らんばかりの勢いだった。
それが忌々しい目で見られたことにより、その闘争心が溢れ出た。
「おのれ貴様、主もなしにここへ何用だ!」
「用も無しに来てはならぬか。
それに天冥さまは今は準備に取り掛かっておるところだ」
準備、だいたい何の準備なのかは見当がつく。
準備と言うよりも、刃物を研いでいると例えた方だ正しい。
「清明よ」
百鬼は猛禽の瞳を一度だけ清明に向けた。
「今宵より、安らかに過ごせる夜はないぞ」
「こんの、無礼者!」
蓬丸が鈍色の独鈷を投げつける。
くないを両方に付けて融合させたような刀身の独鈷が百鬼に向かって飛ぶが、それを百鬼は錫状で薙ぎ払う。