晴明の悪点
* * *
「遠子(とおこ)、遠子や」
簀子から身を乗り出した遠子は、ぼんやりと宙を見上げていた。
奇怪な光景であった。
遠子の体は地についていない。
地面から二尺ほど離れて宙に浮いている。
だらん、と唐衣が垂れ下がっている。
月光に照らされた白い肌はその光を弾き、霊光に見えなくもない。
父が呼んでも、遠子が振り向くことはない。
その眼はどこも見ておらず、口は死んだ魚のごとくぱっくりと開かれている。
「遠子!」
もう一声、父が声を上げたところで、遠子がばたりと地に落ちた。
「遠子様」
慌てて雑色たちが倒れこんだ遠子に駆け寄る。
月はぼやぁと光っているが、それでも異様に遠子だけがはっきりと照らし出されている。