晴明の悪点
遠子とかいう姫は、妖光を放っていたぶん見えやすかった。
向かっているのは未申、つまり裏鬼門(うらきもん)に当たる方角である。
鬼門、裏鬼門は妖かしの出入りする道とされ、忌まれている。
「遠子姫、遠子姫!」
清明が呼ぶが、聞こえていないのか聞いていないのかで、返事は無い。
走駆しながら清明は名を呼んだ。
やはり、物の怪か?
清明は躊躇ったが、やむを得ず呪符を抜き取り、遠子に向けて放った。
「オン・キリク・ソワカ!」
放たれた呪符は紙を思わせないほど長く飛び、遠子の背中に貼り付いた。
清明が追いつく頃には妖光が消え、地面に落下しようとしていた。
しかし、落ちる前に清明が間一髪のところで支える。
長い髪が華奢な清明の腕に垂れる。
「遠子姫、目を覚まされよ」
小さく揺さぶってみた、ら、あろうことかその遠子に容赦なく頬を打たれた。
暗闇の中で白い手が見えたかと思えば、ばちん、である。
「ぶっ!」
思わず声を上げる。
いままでも憑き物を取ったことはあったが、叩かれた事など一度も無い。
いや、それ以前に叩かれるような事などしていない。