晴明の悪点


「な、何を」

 頬を押さえて狼狽する清明に一瞥をくれ、遠子が相手の姿も見えないのにこう言い放った。


「物の怪ね。私をここに連れてきてどうするつもり!?」


 いや、物の怪ではない。陰陽師だ。


「ご、誤解でございます。私は陰陽寮の――」

「おのれ、人の化生め!」


 清明の顔も見えぬくせに、遠子はその袖を清明めがけてぶんぶんと振り回した。

人間はどうしてか、得体の知れぬものを嫌う。

仕方なく清明は、簡単な燐光を使うことにした。

 呪符に息を吹きかける。それを棒状に丸めると、宙にて弾ける。

それは緩やかな、数歩先だけを照らす蛍光となった。


「ほ、ほらっ、よく見てくだされ」


 振り回される遠子の手を受け止め、清明はできるだけ冷静に言った。

遠子がやっと大人しくなったと思しき遠子は、まじまじと清明の顔を見つめた。


「あなた、女?」

「男にございます・・・」


 誰もが口をそろえて、失礼なことを言う。

清明は肩を落とした。


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