晴明の悪点
「男がそのような軟弱な顔をしているはずが無いもの」
「軟弱なのに変わりはありませぬが、男なのです」
声の調子が落ち始めてきた。
「妖かしの類ではないの?あの者たちの中には、類稀なる美しさを持つものも、いるというし――」
若干しかめっ面で遠子は清明を見た。
女の自分が見ても悔しくなるほどの、美貌である。
遠子は単衣の懐に手を入れ、そこから匂ひ袋を取り出した。
それを持っていると言うことは、やはりそこらの役人の娘では無いのがわかる。
これらを手に入れることは、清明たちのような身分の者では困難だ。
匂ひ袋を取り出すや、ずい、と清明の前にそれを突き出した。
妖かしが嫌忌するであろう香りが、鼻をくすぐる。
「・・・これを見て、なんとも思わないの?」
「はい」
どうやらこの姫、妖かしの類がこの匂いを嫌う事を知っているらしい。
これを見ただけで、そこらの妖かしならば飛び上がって逃げてゆくであろう。
善悪問わず、全ての妖かしが、だ。
その匂ひ袋を恐れぬという事は、やはり人か。
そう思ったのか、遠子は、
「本当に人間なのね」
と半ば意外そうに言った。