晴明の悪点


「では、あなたは誰なの?」


 ようやく人間として見たように彼女は言い、燐光の中で大して見上げるほどの身長も無い清明を直視した。

少し名乗るのを躊躇したが、清明は忠実にも遠子の小顔を見つめ返した。


「陰陽小属、阿部清明と申しまする」

「せいめい?」


 彼女が円らな瞳を丸くした。


「あの、土御門の?」

「いえ、そちらのほうではなく・・・」


 清明はやはり苦虫を噛み潰した顔で苦笑して見せた。


「晴明の悪点、と言いまする」

「悪点?あの、落ちこぼれでひ弱な弱小の陰陽師、の?」


 それはまた酷い言いぐさである。

それほど、そう呼ばれていた最初のうちは評判がひどかったのだ。


「・・・・・・はい」


 もはや涙が流れ出そうだ。ため息が喉の奥から出かかる。


「じゃああなた、まだ若いのね。悪点の話をよく耳にしたのは、私が十二歳の頃だもの」


 清明の悪い評判がいちばんはびこっていたのは、十年前である。

遠子は頭が良いらしい。計算が速い。

と言うことは必然的に、遠子は二十二歳、幼い顔でこそあるが、

とっくに嫁入りしてもおかしくない年である。




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