晴明の悪点
遠子をまじまじと見てみるが、顔の作りが悪いわけでもない。
成熟した女の顔、とも言えないが、男が寄り付かぬような容貌ではない。
「頭が、良いお方ですね」
ぽつりと思ったことを言うと、遠子は顔をしかめた。
「頭が良い女は良く思われないの」
言ってはならぬ事を言ってしまったか、と今更になって清明は方を耳の辺りまで上げた。
「それに妖かしに憑かれ易いなんて、男も寄り付かないでしょうね」
もしや、まだ未婚であったか。清明は更に顔色を悪くした。
「でも気にしないのよ、一人でも構わないから」
遠子の口調は、まるで優雅に踊るようであった。
「一人のほうが自由なのよ。屋敷を抜け出して、右京に来る事だって出来る」
「右京に、一人で!?」
清明は思わず声を高くした。
右京にいる妖かしとて全てがおとなしいわけではない。
悪戯で憑き物を憑かせるものだっていないわけでは無いし、浮遊する怨霊がいるわけだ。
そんなところを無防備な箱入り姫が一人で来るなど、いくらなんでも落とし穴に身を投げるようなものではないか。