晴明の悪点
陰陽寮の誘い
* * *
「天冥が断っただと?」
陰陽頭の小さな怒号が、静寂な陰陽寮に木霊する。
「なぜじゃ、官人陰陽師として宮廷に仕えたくないというのか」
「昨日、奴の式神らしきものが断りの言伝を・・・。
やつは今中務省の前におりますが、何も動じた風もなく・・・」
その会話は清明にも聞いて取れた。
前から耳にしていた話題である。
なにしろ天冥は都を騒がす厄介者の陰陽師である。そこで対策として陰陽寮が出した妙案はこうだ。
天冥に正式な官位を与え、陰陽寮に引き入れ手中に収める――と。
しかし、それに天冥は応じなかった。
天冥ほどの陰陽師であれば、寮に入れば確実に良い地位を取れるであろうに、誰もが望む誘いを、天冥は断ったのだ。
昨日、百鬼が大内裏の方角からやってきたのは、言伝の帰りだろう。