晴明の悪点
十一年前、もしそのときに陰陽寮からの誘いが来ていれば、人殺しから脱し、都人となることができた。
人としても生きられた。
そうすれば莢(さや)を守ることに、抵抗も無かったはずだ。
薬師の莢――脱兎の如く大内裏から逃げてきた若りし日の天冥もとい多優を救った、寛容な心の女、
そして、生前は多優と相思相愛の仲にあった薬師である。
この女に関しては、『GEDOU-守りたきもの-』にも記してある。
感受性が強いと言うよりも情が優しく強いといえる。
なによりも人を真に見る隻眼を持ち、生きしものを対等に見る、と言うところだ。
たとえ目の前にいるものが、外道の皮をかぶった元は優しき青年であるとしても、例外ではない。
もっとも、彼女はもう死んでしまっている。
天冥が悔やんでいるのは、なぞの知を遂げた彼女を、人としていきることを無理に拒んで意地を張っていたために、守れなかったことに対して、だ。