晴明の悪点
「ふん・・・」
反吐が出る――とばかりに、天冥はその二言で吐き捨てた。
「む、――天冥様」
蓬丸と違って通常のものの目には見えぬ類の式神である百鬼の姿は、人の目に映ることは無い。
だから今、目の前に現れた陰陽寮の者に見えることも、おそらくない。
百鬼は、それが陰陽寮の者と判断し、勢いに乗って錫状を構える。
しかしその腕を天冥が強い力で掴む。
そうせねば、細くも力強い百鬼を止めることができぬのだ。
「待てい」
ほんの蚊ほどの声で百鬼をたしなめ、天冥は怪しげな笑みを顔に浮かべて背を築地から離した。
目の前にいる男はちょうど自分と年齢が近い三十代前半、
しかし落ち着いた風貌のわりに若さを感じ取れ、嫌でも文武両道の全能ぶりを思わせる。
秀才、と言うだけの見た目なら清明も該当する。
しかし清明はその分、貧弱なところが見て取れる。
ちょうど、現代で言えば『眼鏡男子は頭が良さそうだが運動が苦手』なイメージを思わず抱いてしまうのと同じだ。
そんな欠陥が、この男には無い。
「天冥殿とお見受け致す」
目の前の男は言った。