晴明の悪点


 * * *


 泰成が無傷で戻ってきた事に、清明はほっとしていた。

蓬丸は腑に落ちなさそうに、「おかしいなあ」などと他人事をぼやいている。


《ああいうあからさまに優しさを振りまくような男は絶対に裏がある。

それが暴けなかったという事は、天冥はきっと阿呆だな》

 
 式神は人よりも察しが良い。

それゆえなのか蓬丸の言い方が如実に聞いて取れる。

うそっぽさが無い。


 夕暮れが近づいている。

退出の許可をもらい陰陽寮を出ると、天冥はその威光を煌かせるようにそこにたたずんでいた。

「おや、誰かと思えば、清明ではないかよ」

 天冥が嬉しそうな声を出した。

これはデートの待ち合わせに遅れてきた恋人に言うような口ぶりである。

「ここで、なにをしているのだ」

「行く所も行きたい所も無いからここにおるのだよ」

 ゆらりと動き、清明に歩み寄る。

清明は思わず、六尺あまりもある天冥を見るやのけぞりそうになる。

相変わらずの、見えぬ迫力である。

「そういえば、清明も陰陽寮のものであったな」

「――」

「清明がいるのだったら入ろうかとも思ったが、朝廷の良いように動かされるのも癪なものでな」


 天冥が早くも剣印を結んで構えたのを見るや、清明は焦って、

「待たれよ」

 と手の平を天冥の前に突き出した。

 今ここで方術対戦が行われたりなどしたら、大内裏はひとたまりも無い。



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