晴明の悪点
かれこれ十年以上も前の怪事を、なぜ今まで陰陽師に相談しなかったのかが不思議でしかたがない。
それ以前に、この十年間そのような怪奇に見舞われていてもなおこの平然とした表情、
貴族にはありがちな怯えと言ったものが微塵も無い。
(すごいお姫様だ)
《すごいお姫様でございますね》
清明の感心にも似た思いを抱くと同時に、蓬丸もやはり意外そうに声を漏らした。
「――女の方の声がしたの」
「女の方・・・」
「その声がずっと私を呼ぶのよ」
かれこれ十年も、と重要事項なのか遠子はその言葉を繰り返した。
『おいで、おいで』
木霊すような威圧感のある声が、逢魔ヶ刻の頃になると、どこからとも無く聞こえるのだという。
『さあこちらへ、こちらへおいでくださいませ――』
声のするほうへと、遠子は一人で歩いていくのだった。
「そこで、歩いていけばいつも右京にたどり着くの」
「逢魔ヶ刻に右京へ、でございますか」
物の怪に取り憑かれる原因も、分かる気がする。
そんな時間に右京へ行くなど、高貴な身分で滅多に外を出歩かぬ女性にとっては、
それこそ危険極まりない。