晴明の悪点
「遠子様が物の怪に取り憑かれたときも、あなたは右京にいらっしゃいました」
初めて女に叩かれた件の日の晩を、清明は忘れはしない。なにもかも鮮明に覚えている。
「やはり、誰かが私を右京に導こうとしているのね」
「えっ」
「ああいうことは少なくなかったみたいだもの。宙に浮かんだり、
勝手に知らぬ間に右京に行く事も」
口から水を流すような口振りであった。
普段やたらと悪霊だの穢れだのを恐れている者たちの一人とは思えぬほど、さらりと遠子は言ってのけた。
もちろん、そんな遠子に驚きを隠せる清明ではない。
「驚いているの?」
「もちろん・・・」
目をぱっちりと開き、呆然としているのは清明のほうである。
一方の遠子は、こんな陰陽師など見たことが無いとばかりに清明の瞳を覗き込んでいる。
《清明様、しっかりしてくださいませっ》
蓬丸に喚きたてられ、やっとの事で清明は「すみませぬ」と言う。気を取り直して、
「それで、いつもどこに行きつくのですか?」
と問うた。