晴明の悪点


「これと言った場所にはたどり着かないわ」

「別々の場所に、いつもいるのですか」

「無意識に右京に来る時は、見知らない所で目が覚めるの。

呼び声がするときは、誰かの声に引き止められるのよ」

 
 そこで清明はひときわ強く反応した。

目を見開き硬く口を閉ざし、沈黙と言うには物騒な静けさである。


「また、声なのでございますか」

「ええ」

「姿は?やはりそれも」

「見えないわ。でも、若い男の声よ」


 空から落ちるような響きだったが、女の声に相反する、いたわりを持った声だった。

屈強な男よりも、優男風の貴公子――もっと言ってしまえば、女の喋り方にも似ている。


《遠子様、遠子様》


 その声に、いつも遠子は引き止められるのだった。


《なりませぬ、遠子様。右京に来てはなりませぬ――》


 その声は次第に大きくなっていったのだという。


「だから二年ほど前に、呼ばれても右京には出ないようにしたの」

「しかし、物の怪は」

「祓ってもらったわ、一応。

・・・祓えていないようだったけれど」


 そこで声を小さくする事も無く遠子は躊躇もなしに言った。





 




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