晴明の悪点


「そういうことでは、ござらぬと思いまする」

 
 日が沈んでゆくのが分かる。

どんどんと部屋の中が暗くなってゆく。しかし清明はそのときだけ、美しきその眼に光を宿していた。


「憑き物ならば私でも取れましょう。おそらく、取ってもまた次に物の怪が憑く、とか、そう言ったことだと思うのです」


 その祓った陰陽師が無能なのではない――。

言い募って清明は我に返り、一気にしぼんでしまって肩を縮めた。


「す、すみませぬ。出すぎたことを」

「あなたもしや、人のことを悪く言えない人なの?」

「お人好しでございます」


 そこで割って入ってきたのが、蓬丸である。

いきなり清明の懐からするりと抜け出すや、瞬く間に人の姿をとって遠子の前に降り立つ。

堂々たる立ちっぷりだ。

「失礼つかまつります、式神の蓬丸と申します。

清明様は生まれてこの方優しすぎてお人よしゆえに、ついこうやって人を庇ってしまうのでございます」

  
 突然出てきて好き放題言いながら、蓬丸はちょこんと二人の間に座った。


「式神?」

「式神でございます」


 遠子の問いに蓬丸は間一髪開けずして言った。

いつもなら勝手に出てきたら少なからず、すぐに清明の許へ戻る蓬丸だが

どうも遠子とは相性がいいのか、蓬丸も仲良さげだ。


 蓬丸が出てくることは決して悪い事ではないのだが、

強い女二人に挟み撃ちにされた女のような清明に逃げ場などあろうはずも無い。

青菜に塩。

ますます清明の肩身は狭くなっていく、ような気がする。




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