晴明の悪点
弱いとはいえ陰陽師の呪符に打ち勝ち、そして匂い袋もものともせぬとは、強い妖かしの証拠である。
今もなお遠子の中に潜んでいる物の怪は、おそらく弱ってはいないだろうし、
この夕時、つまり逢魔ヶ刻に出てきてもおかしくは無い。
「遠子様の中にいる物の怪は、きっと強いものでございます」
「まだいるのね、私の中に」
「はい・・・」
おもむろに清明は言った。
自分が助けた人間の再びの危機を黙って見過ごすわけには行かぬだろう。
「物の怪に、御方の体から出て行ってもらいましょう」
あくまで出て行ってもらうというだけで、真っ向からいきなり調伏しようと言うわけではない。
生霊や物の怪、人に取り憑くものには必ず成り立ちがある。
問答無用で叩き切るなど、冷酷無慈悲も甚だしい。
もし可能であれば、調伏などせずに成仏させるか、元の居場所に返してやりたい。
「祓うの?」
「いいえ、出て行ってもらうだけでございます」
小さく言うと、清明は更に姿勢を整えて八葉印を結んだ。
「遠子様、少しばかり手の平を上向きにしていてくだされ」
「わかったわ」
「物の怪を呼び出しますゆえ、気を張っておいてくださいませ」
「平気よ。怖くは無いわ」
やはり、強気と言うか肝の据わった姫である。