晴明の悪点
神薙、羅生門より都を見るもの
* * *
平安京の夜は、蒼さを帯びた黒の絹を、空いっぱいに広げられているようにも見える。
日が沈めば、ほとんどの場所に光はない。
あまねく、闇の中に浸ってゆく。
この都の者たちは、たいていはこの時間になる前には退出していく。
逢魔ヶ刻を過ぎれば、都の夜は魑魅魍魎の住処となる。
それらに襲われぬようにと、彼らはその時間には部屋にこもってしまうのだ。
寮や省にて宿居(とのい)する者もいるが、それらでも夜を恐るる。
この時期になると夜桜が美しいが、その桜を照らす月は雲に隠れてしまって見えない。
宵の空は次第に暗黒へと移り変わっていく。
それはあまりにも早すぎた。
雲もまた、同じように早い。
わずかに見えていた月のほんの一部でさえ、気付けば雲がすべてを覆い隠してしまっている。
暗黒に、何もかもが呑み込まれていく。
その中で、緑色に光る瞳孔だけが、せわしなく動く。
切れ長の目に埋め込まれた、妙なる――人ならぬ眼球が、ぬるぬると光沢を放つ。
「やれ、何も見えぬ」
変声期を迎えて間もない、少年と青年の狭間のような声である。
緑色の瞳が言うや、その横で、ぼう、と男の握り拳ほどの赤い火が発生した。
面妖な火である。
どこかに篝(かがり)があるわけでも松明があるわけでもないのに、火だけがある。