晴明の悪点
* * *
「清明様、本当にやるのですか」
「別に何か凶たるものが動いているわけでもないけれど、
人よりも敏感な妖かしがいうのだから、何か不吉なことの前触れであるとか」
「いいや、清明様に至っては、ただお人好しで向う見ずなだけゆえでございます」
ひどい台詞である。
蓬丸は昨年よりも、余計に清明のその性質をどうにかしようとするべく、
もはや暴言とも言える台詞を吐くようになった。
平安京の夜――。
清明はこの死者黄泉がえりの原因を暴くべく、京の夜に飛び込んでいったのだった。
蓬丸はしきりに鼻をひくつかせ、くだんの土の臭いというものやらを嗅ぎつけようとしている。
「ちぇっ、妖かしほどの嗅覚があればなあ」
妖かしが鼻が利くことをねたんでなのか、臭いを的確に嗅ぎつけられぬことが悔しいのか、蓬丸は舌を打った。
「だいたい、都を守るのは検非遺使の庁の役人どもであって、陰陽師ではありませぬ。
たしかに奴らも税を取り立てるばかりであまり役に立ちませぬが、
もし仮に都が危ういことになる兆しがあったとして、あとは陰陽師の領分ではありませぬ」
ぶちぶちと文句ばかりを並べる蓬丸は、しかし夜行性の獣のように茶色の瞳を月下にちらつかせ、あたりを見回している。
「まあ、死んだ者たちが帰ってくるというのは、清明様の言うとおり、悪いことではないかもしれませぬが・・・どうも、不吉」
「不吉、か」
言っては悪いが、不吉というよりも不気味である。
大きな妖かしが陰で何かをしているような気配もなければ、清明の陰陽師としての勘も騒がない。
「しかし、変だと思うことが一つある」
「死者が蘇ったことでございますか」
「死者が蘇ったとき、どうして土の臭いまで一緒に臭ってくるのか、だ」
「何かが骸を掘り起こした、だとか。地の中から出てくる死人の妖かしなど、聞いたこともありませぬが」
たしかに、中世の北欧、米国には斯様な妖かしもいる。
体が腐乱した状態で土から出てきて、人を食う。
一説には死兵となり面妖たる術を使う陰陽師と似たものの配下につくとのこともある。