晴明の悪点
言ってしまえばそれはゾンビということになるのだが、そんなものは当時の平安居には伝わっていないし、
ほかの国々でも、そういった伝説はまだないだろう。
当然のことながら、清明たちもそのようなものの存在など知るはずもない。
「土の中から・・・。そういった風に思うのが一番適切かもしれない」
清明の言葉は抽象的だった。
かもしれない――あたかも、ほかに何か口の中にほかの考えでも含んでいるようである。
悪事については確信を持てない。他人の悪事を暴くのは苦手。
清明の、悪い性質である。
九条大路像にある森は、実に黒々としている。
純粋な黒だが、そのぶん、どこまでが人が通ることのできる道なのかを把握させぬほどの無限を思わす色が、清明を、人を拒んでいるようにも見える。
当たり前だが、土の臭いがする。
「見えないなあ」
「見えませんねえ」
夜に先が見えなくなるのは当たり前である。
二人は同時に、そうぼやいた。
九条大路に沿って羅生門側に向かって歩くことを試みる。
清明がいる方向は、どちらかというと裏鬼門に位置する方角である。
夜にその方向へ行くとなれば、妖かしとの遭遇は間違いなく避けられない。
だから、近所であるし、ここから調べているほうがいいだろうと清明は考えた。
清明は丸くした呪符を宙に放り投げた。
その眼前に灯されたのは、青白い妖光である。
それが清明の足元を薄く照らし出した。
「うきゃあ」
土に潜っていたと思しき妖かしが、眩しいぞとばかりに顔をしかめる。
「夜に明かりをともすやつがあるか、近所迷惑じゃぞ」
と、妖かしに説教される始末である。
そうは言われても明かりを消せばこちらが見えない。
すみませぬと一礼し、清明はその場からのいた。