晴明の悪点
蓬丸が出したのは、細い竹筒ほどの壺である。
納得いかなさそうに懐からそれを取り出した蓬丸を見たところ、
どうやら他の用途のために、この安酒を持ってきたらしい。
「ありがとう、蓬丸」
用意周到だ。
清明は純粋な感謝を顔にあらわにし、それを受け取る。
持ってきた当の蓬丸はというと、両頬を不満を発露にするように膨らませた。
「・・・本当はこんなことに使うつもりじゃなかったのになあ」
そう、こんなことに使うつもりはなかった。
実は、これは清明をあの色欲に満ちた妖かしどもの魔の手から守ろうとして――
主に襲いかかろうとするものに安酒をぶっかけてやろうと思って、
対策としてこれを持ってきたのだ。
鎮魂や祈祷に酒や塩の類は不可欠だが、
自分が持ってきた安酒をこんなところで使われてしまうとは。
「これはあの色欲深き雄蛙にぶっかけてやるためのものでございます。
清明様を守るためのものゆえ、これは渡せませぬ」
と、安酒を背に庇いたいところだったが、そこはやはり彼女も式神だ。
誰よりも敬愛すべき、母も同然の清明が、美しい顔で自分を頼りとして見てくれたとなると、
なんだか逆らえなくなってしまう。
束縛とか抑圧とか言ったものではなく、刃向うもの全てを無力化するような柔らかさが、彼にはある。
しかし、天冥らのような類は例外中の例外だ。