ゆきんこ
バスの扉が開くと、文人が背中をポンと押した。
「……また明日。」
「うん、バイバイ。」
何故か……、
後ろ髪がひかれる。
「……早く乗れよ。」
「……うん。じゃあ……。」
私はステップを上りきると…、立ったまま、窓の外を……
見た。
文人が右手を小さく振る。
『バイバイ』
私も口パクで彼に返事する。
……が、
その後方から……
こっちに向かう人影。
気の抜けるような音がして。
バスのドアが……
しまる。
私の視線は……
文人の後ろ。
その人に釘付けで……
バスのすぐ側に辿り着いた、新野が放つ言葉を……
必死に、読み取ろうとしていた。
「…………?なに……?」
私が首を傾げると、新野は一つひとつゆっくりと……
言葉を綴る。
『~……』
「……『俺は』?」
『~……』
「……。…『待ってた』…?」
待ってた?
「……誰を?」
…………君は……
真っ直ぐ私を指さしていた。
私を……?
無情にも……
バスが発車する。
見えなくなるその時まで……。
新野はそこから動かなかった。
こっちを向いたまま……
何かを訴えかけるような、そんな瞳で。