ゆきんこ
帰りのバス。
私と咲は相変わらず二人掛けの席を確保して……
会話に花を咲かせる。
けれど私は……
そわそわして仕方なかった。
もうすぐ新野滉が乗ってくると思うと……
動悸は早まるばかり。
もちろん、絵を描くことはしない。
覗き見は……
バレたらただのストーカー。
ドアが開いて……
いつも通りに、南校の生徒達が乗ってくる。
もちろん……
新野滉の声を聞き分けるのは簡単で……
その度に、ハンパないドキドキ。
「新野くん、乗ったかなあ…。」
咲が呑気に耳打ちしてきたが……
「……さあ……。」
その姿を、確認する勇気はない。
「……どれ………っと。」
咲はとうとう後ろを振り返り……
「お……。きょうもイケメン。」
にへら~と顔を崩した。
その…
数秒後。
「…………幸…。」
「……ん?」
「……新野くんがこっちに向かってきてる。」
「……は?」
今までそんなこと……
「オス。」
「「…………。」」
手摺りを掴んで。
彼は明らかに私の顔を見て。
ちょっと低めのその声で……
なんと……
声を掛けてきた。
私と新野滉の顔を何度も交互に見比べる咲は……
『え、なんで?』っていった顔……。
「ども……。」
私はちっちゃくなって。
顔も見ずに……
返事した。
「…あの後大丈夫だった?まさかまた雪に埋まったり…してないよな。」
「ええ、まあ。」
なに……
私……素っ気ないっ!
「幸……。何かあったの?」
見兼ねた咲が、私の顔を覗きこむと……
「『ユキ』?」
頭上に、声が降ってきた。
「………はい?」
「アンタ、ユキって名前なの?」
「??はい。」
すると…どうだろう。
新野滉が、声を上げて……
笑った!
わあ……
目がなくなってる!
めちゃくちゃ楽しそうに笑うんだあ、この人……。
てか……、
なんで??
「アンタそんな雪みたいなアタマして、しかも雪に埋まって、そんで名前もユキ?!もーダメ、ぴったり過ぎんだろ。」