ゆきんこ
一気に流れ込んで来た冷気が、鼻先をツンと刺激する。
と――…、外を見下ろしたそこに。
携帯を片手にこちらを見上げている者、アリ……。
幻想を抱いてしまっていた分……肩ががくりと下がったことは、言うまでもない。
「幸。やっと起きたか!ここから電話しても出ないから、今日はゆっくりなのか?」
そこに居たのは、車庫から出した車の傍らに立つ、私の……お父さん、だ。
「あれ?……アラームじゃあなかったんだ…。」
言われてみると、昨日設定した記憶はない。
バイト疲れで、いつのまにか寝てしまっていたのだろう。
そういえば、お風呂に入った覚えもない。
花の大学1年生…。
勉強よりも、サークル。
サークルよりも、バイト。
そんな、女が廃っていくようなハードな毎日を…送っていた。
「…ていうか、朝から外で何してんの?」
「んー?新しいスタッドレス買ったし、少しでも走って、慣らさないと。」
お父さんはそう言って、どこからかタイヤを転がして来ると……
ジャッキを取り付けて、車体を上げる。
「……タイヤ交換、か。」
雪国ではスタッドレスは必須。
おまけに割高でも、車は4WDじゃないと、発進に難がある。
去年は知らなかったこと。
今、免許を取って乗るようになってからは…だいぶ、詳しくもなった。
「……そういえば、新野は前から詳しかったっけ。」
思わず呟き出た言葉にハッとして…首を振る。
朝から、あんな夢……見たからだ。
猫みたいにこたつで丸くなって。
無防備に寝る、新野の…横顔。
それをただじっと傍で見ている…私。
こたつの中で二人手なんてにぎっちゃってさ。
穏やかな寝息が…2つシンクロしてさ。
そうしたら、アラームが鳴ったような気がしてさ。
「………おとーさん、ひどい。」
「……?幸のはさっきもう交換したぞ?」
「……え?……ああ、うん。ありがとうございます。」
「……けどおまえ、ワイパーは?冬用買ったのか?」
「……ワイパー?」
「おいおい、頼むぞ~?雪降ったらとんでもない、これじゃあ効かないよ。」
「今日は霜が降ったしな。」と付け足してから、お父さんは、また自身の仕事へと…勤しむ。
どうりで寒い訳だ、と思いつつ…朝からの重労働に労いの言葉をかけてから。
私は、窓を閉じた。
「今日は2コマからの講義に出ればいいんだから…、ワイパー、買ってこようかな。」
平日の…朝。
時間がたっぷりあっても、その日々に大きな変化は…なくて。
大抵は夏に免許を取った車に乗って、大学へと真っ直ぐ出掛けていく。
サークルに参加して、バイトへと直行。
バイトの費用は…殆どローンに充てて。
あとは、疲れてへとへとな身体で…家に帰る。
日常は、それの繰り返しだ。