ゆきんこ
普段は静かな、田舎街の夜…。
それでも、週末を迎えると…、裏路地の飲み屋街は若者と、仕事帰りのサラリーマンとでごった返す。
赤のちょうちんをぶら下げた、私たちのいる居酒屋もまた…
多くの宴会客で、賑わっていた。
バレーサークルの、ちょっぴり早い忘年会。
場を取り仕切るのは2コ上の先輩、相模さん。
私が卒業した高校の、バレー部OBでもある。
昔から、とても面倒見がいい人だったけれど、今日も皆の注文をとったり、隙あらば…笑いをとったりと、上手な盛り上げ役を買って出ていた。
皆程よく酔いが回った頃だろうか…。
相模さんはグラスを片手に、私のすぐ隣りにドカッと座り込むと…。
「後は奴ら勝手にやるだろうから。」とそう言って。
グラスを傾け、乾杯を促して来た。
「お疲れ。……って、お前飲み物入ってないじゃん。ほら、次何飲む?」
「…………。大丈夫です。ちょっとドカ食いしまして…もう少ししたら頼もうかと。」
差し出されたソフトドリンクメニューをお返しして、彼の流石の気の回し具合に…思わず、くすりと笑ってしまった。
「相模さんの方こそ、お疲れ様です。」
二つのグラスが合わさって、カチリ、と音が鳴る。
相模さんはグビッと一口酒を口に含むと……
さほど酔ってもいないだろうに、酔っぱらい口調で…イタズラな質問をしてくる。
「……珍しいんじゃなないの~?福嶋がこーいうのに参加するのって。合コンとか誘われても来ないだろ~?」
「………。今日はバイトも休みなんです。」
「ふーん。あ、まさか、狙ったヤツがここにいるとか?………イヤ、あり得ないか。異性の前でそんだけドカ食いするって。」
カラカラと笑って見せた相模さんは、不意に…真面目な顔つきになると。
「福嶋のオトコって…。もしかして、文人?」
なんて……、少し懐かしい名前を出してくる。
「仲良かったしなー、やっぱ、そういうことだったんだよなあ。」
「……。あの…、いえ、文人じゃあないです。」
「え!うそ、高校の時から付き合ってるって…まだ続いてたんじゃ…?」
「…………。」
相模さんは、文人のお兄さんの同級生。
多分そちらの方から、小耳に挟んでいたのだろう。
「……あの、色々とありまして…。正確には、高校卒業した日から、他校の人と。」
「……じゃあ…、何?付き合ってまだ1年も経ってないんだ?」
『まだ』の一言が…、チクリと胸に刺さる。
「ヘー…、じゃあ、こういう場に来たってことは、ヤケ食いしてるってことは、もしかして……」
と…、そこまで言って、彼はピタリと言葉を止めた。
何故なら……私が、手元のグラスを。
やや乱暴に…テーブルに置いてしまったからだ。