ゆきんこ
『俺…、行くわ。』
次に新野が発した言葉は、この電話の…終わりを告げる言葉。
『待ってるし、もう…結構ギリギリだし。』
新野は、バスで…遠征先から帰る所だ。
「待って」なんて、言えるハズもない。
「…うん。」
『楽しんでる所、悪かったな。…じゃ…。』
新野の声は、呆気なく…途切れた。
違う、また…間違えた。
電話を掛けたのは、私の方なのに…新野に謝られる必要なんて、どこにもないんだよ。
さっきの車の話……、どうして返事しなかったの。
新野を驚かせたくて、助手席に乗せるのが…最初は新野がいいから、って。
夏に、二人でどこにも行けなかったから…、て。
だから……夏の終わりに、免許をとったし、先輩のお願いだって…断ったんだ。
どうして素直に、言えなかったの…?
もしかしたら新野は、色々と誤解をしているのかもしれない。
この、忘年会のことも…
相模さんの存在も…。
私が楢崎景を気にするのも、鬱陶しいヤキモチだって…思われているかもしれない。
確かに、ヤキモチには…違いない。
私は、二人が一緒にバスに乗る姿が……容易に想像できてしまうから。
憧れだったあの後ろ姿。
よく見た…光景。
でも、そこに座るのが…自分だったらいいって。
羨ましいんだ、って。
思わずには…居られなかった。
このままでは…嫌なんだ。
本当はもっと連絡だって取りたいし、
ちゃんと顔を見て、話がしたい。
それは……とてもシンプルで。
けれど、上手く言葉で伝えることの出来ない、私の…願望でもあって。
新野に、会いたい。
私は…今、そう切に願う。