ゆきんこ
そう思ったら…、いてもたっても居られなくなった。
鞄を取りに座敷へと戻り、友人たちにこっそりとその旨を伝える。
皆一様に…目を丸くして、「今から?!」と驚いていたけれど。
決心は固く、1つだけ、深く頷いた。
それから…会費を渡そうと、財布を開けたところで。
相模さんに、その手を制止される。
「何…、もう帰るの?」
「………。」
「一応幹事くらいには、声掛けてよ。そんなに福嶋んち、門限厳しいの?」
「…すみません。あの…、いえ。帰るんじゃなくて、行くんです。」
「今から?……何処に?」
掴まれた手に、ぎゅっと力が…こめられる。
訝しげに覗かせる瞳は、酔っぱらっているとは到底思えないくらいに…真っ直ぐな目。
「彼氏の所です。」
「…ふーん…。待ち合わせ?その慌てぶりは、さてはどこかでもう待ってるの?」
「いえ。待ってるから…行くんじゃありません。」
「…………。」
「会いたいから、行くんです。」
「………。あっそ。」
相模さんは素っ気なく一言呟いて…。
ゆるゆると私の手を、解放する。
「聞いたよ。彼氏、東京にいるんだって?こんな時間に、突然会いに行く。そんなことしなくたって、一肌脱ごうかって…言ったじゃん。」
「…………。」
「……てことで…。」
と…、そこで相模さんの大きな瞳が…次第に垂れ下がったかと思うや否や、彼はその場に立ち上がると。
「女性陣、よーく聞いて!本日忘年会、ここにいる男性陣の奢りとなりまーす!!本日飲み放題食い放題!時間許す限りどんどんオーダーして~!」…と、大声で宣伝し出した。
男性陣からのブーイングと、女性陣の歓喜の声に…場が一斉に盛り上がる。
「……相模さん。」
「可愛い後輩に一肌脱ぎました、はい。だからそれはとっととしまって?東京は金がかかる街だからなあ~…。それに、だ。知らない土地でトラブルになる時には何が必要って?そんなん、愛じゃねーな、金だ、金。もし振られた時には今日ぐらいドカ食いしないと、折角行くのに…わりに合わないじゃん?」
「………。」
「ほらあ、他の人に詮索されんの面倒だろ、今のうちに行きなって。」
「……はい。あの、…ご馳走さまです。」
「ハイハイ。さっさと行った。」
「……それから、ありがとうございます!」