ゆきんこ
ナビを新野のいる街の住所に…設定して。
車を発進させる。
東京まで、少しでも早く行くには…福島市から高速道路に乗るのが…最短ルート。
路地から県道、それから…国道13号線へと抜け出して。
福島県へと向けて、真っ直ぐ真っ直ぐ……突き進む。
妙な高揚感で、恐ろしいくらいに目が冴えている。
とはいえ、免許をとって数ヵ月。若葉マークを着けた軽自動車が、そんなに飛ばせる勇気もなく。
制限速度ギリギリ守っては…時折引っ掛かる赤信号に。
気持ちばかりが…はやるのだった。
金曜の夜。
いつもより若干車の量は、多い気がする。
真っ暗な夜の街の街灯。
ずっと先まで続く…テールランプ。
たった一人のドライブでも、それら目映い光が…とても綺麗で。不思議と退屈など…しなかった。
東京の街のネオンなんて、どれだけ綺麗なんだろう…と、少し期待も膨らんで。
東京までの恐ろしいくらいに遠い距離でも、何とかなるんじゃあないか、って、悠長に…ハンドルをきっていた。
ここは……東京から離れた街。
暖冬といえど、例年ならもうとっくに雪が降る…季節。
それは……、そう。
忘れてはいけない…事実なのに。
長い車の列。
次第にその速度は…緩やかになり。
気づけば、いつの間にやらヘッドライトに照らされる…空からの、落とし物。
ワイパーで払っても払っても…襲いかかってくるそれに、視界を…阻まれる。
暖房が、さっきよりも熱を失い…
外気の冷たさを、そこで理解するのであった。
天気予報では、先ほど…「晴れ」だと確認したばかり。
「……ん?」
突然やって来た、初雪に…やや気持ちは焦るけれど。
冷静になって考えてみると……。
「……しまった。」
私のスマフォの設定は、『東京』だ!
『さすが「ゆきんこ」。まーた雪トラブルか?』
そんな、新野の声が…何処からか聞こえて来る気がした。
なんの、これでは『ゆきんこ』返上です。