ゆきんこ
やっぱり……
見えないや。
バスの後方。
ブザーの音と共に、ドアが開く。
次々と乗る乗客。
その中で…
ひときわ賑やかな集団がいる。
「さみー!お前カイロ貸せよ。」
「やだよ。自分で持ってこいや。」
そうやってじゃれ合って……
彼らは空いてる一番後ろの座席に座る。
「…新野ー、これ、誰の曲?」
「あ?知らん、兄貴が勝手に入れた。」
音楽…聴いてるのかな。
ふーん…、お兄さんいるんだ。
「ゆき。ゆーきっ!」
「え。あ、はいはい?」
「うち今日鍋するらしーけど、幸もくる?」
「わ、行く行く!」
「いっこは闇鍋だけど。」
「げげっ、やっぱやめよっかな。」
「だーめ、あんたいないと盛り上がりに欠けるもん。ヨッ、リアクション女王!」
誉められてるんだか、何だかなぁ…。
「…まあね。近年デビューするかもしれないから、今のうちサインしとこっか?」
「…………。いらないし。」
ガタンガタンと……
右に左に揺れながら……
バスはどんどん進んでいく。
【次は○○ー…お降りの際は降車ボタンで………】
「…おっと……。」
咲が毛糸の手袋を取り出し、ふわふわの耳あてと共に…装着した。
……バスが止まる。
「じゃあね、幸~、また後で!」
親友は。
いつも先に降りていく。
気づけば窓はまた結露して……
私の軌跡を消していく。
まるで黒板消しで消すように、掌でそれを拭って……
こっちを見る咲に、ぶんぶんと手を振った。
君のことも……
こうして、堂々と見れればいいのにな。
発車したバスの中……。
そこには、もう数人しか乗り合わせていない。
私と………、
そう、一番後ろの君と。
「次は…○○ー……。」
車内アナウンスに、私は降車ボタンを押して……
その時を待つ。
定期券を見せて、一番に降りる。
それから……
わざと立ち止まって、そこで手袋をはめる。
その時に……
君はやっと降りてくる。
新野 滉……。
私が、気になるひと。