甘い唐辛子

着いた美容院は維十の行きつけの所らしく、たくさんの定員が維十に「久しぶり」と声をかけていた。


「初めてですか?」

入口で立ち止まっていた私は男の店員に声をかけられた。
軽く頷くと、店員は奥の椅子に案内した。


「今日はどうされますか?」

「毛先を整えるだけで。」

「色は変えませんね?」

「はい。」

「わかりました、少々お待ちください。」


店員は黒渕の眼鏡を押し上げてからどこかに行ってしまった。


維十はすでに髪を濡らした状態で、大きな鏡の前の椅子に座っていた。


こちらからは後ろ姿しか見えないが、鏡越しに維十と目が合った。

少し不機嫌な維十は、私をジッと見つめていて


「お客様?どうぞ、こちらに。」


店員が目の前に来たことに気がつかなかった。



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