甘い唐辛子

髪を切ってもらっている間、どうしても維十の事が気になり、無意識に維十の方へ向かないように、と努力した。


「どうでしょうか?セットしやすいように少し軽めにして、毛先も整えました。前髪も斜め気味に切りましたので、流すだけでセットできますよ。」

「あ、はい。どうも。」


ずっと意識が維十へと向いていたせいで、自分の髪がどんな風に切られているのかわからなかった。

毛先だけを整えるつもりだったのに、いつの間にか髪型も随分変わっていた。


「では、お疲れさまでした。お会計のほう、こちらですので。」


黒渕メガネの店員は隙が無い笑顔で私をレジまで案内し、その笑顔のまま私から代金を受け取った。


「ありがとうございました。」と変なイントネーションで言われ、きっと私の顔は引きつっていただろう……



そのすぐ後に維十も終わり、お互いを見て、少し頬を染めた。


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