甘い唐辛子
▼記憶▼
月蝶に行った日から、俺はずっと気になっていることがある。
あの女が最後に言った、「藤成」と言う言葉。
きっと、何かの、誰かの名前だ。
俺は、その言葉がずっと引っ掛かっていた。
どこかで聞いたことがあるのには、間違いなかった。
「藤成…藤成って…」
3時間目の時間、授業をサボり、屋上で空を見ながら脳みそをいつも以上に回転させていた。
空には雲1つ無く、爽快と言う言葉がぴったりといった感じの空だった。
暫くボーっとしていると、映像が頭をよぎった。
………………まさかな…
俺は頭を振り、その考えを取り去ろうとした。
無駄なのはわかっていたが、どうしても、体にはいった力を抜きたかった。
あの悪夢が、また俺を襲うのか…
またあんなに泣くことがあるのだろうか…
不安は俺を締め付けるばかりで、真上にある爽快の空とは正反対なこの気持ちを、どうすることもできなかった。