甘い唐辛子


静かな空間、誰もいないようなこの中庭に、ヤスさんの声が響く。


「母さんはあなたのお母さん、菫さんが大好きだった。
結婚した後もしょっちゅう俺を連れて、菫さんのところに遊びに行っていた。俺は菫さんのことも母親のように思ってたんです。
でも、菫さんは早くに亡くなってしまった。
この世界にいる以上、いつ死ぬかなんてわからないし、いつ死んでもおかしくないと覚悟しておかないといけない。だから、菫さんは母さんに言っていたんです。『私に何かあったら、霞澄のこと、お願いね』って。」




知らなかった。

ヤスさんは私が知らないお母さんの話を、事実を微笑みながら話した。


< 201 / 212 >

この作品をシェア

pagetop