甘い唐辛子
ヤスさんはゆっくりとベンチに座り、私にも勧めてきた。
私は間を空けてヤスさんの隣に座った。
「案の定、あなたは若に婚約を申し込みに来た。それは俺にとって1番好都合なことだったんです。
あなたを近くで守れる上に、危険から少しでも遠ざけることが出来るから。」
ヤスさんは真っ直ぐに前を向いて話す。
その横顔は、優しさと力強さに満ちていた。
「…嘘の噂をたてれば、どうなるか、わかっているんですか…?」
震える声に情けなさを感じたが、それでも訊きたかった。
「…俺はどうなっても良かった。ただ、母さんと菫さんとの約束を貫き通したかった。」
「どうして!!どうしてそんなに私なんかを……」
「長年見ている間に、あなたは俺の大切な人になっていたんです。俺の大切な妹のように。」
ヤスさんと目があう。
優しい瞳に、また泣きそうになる。
「…結婚、嫌でしたか…?」
ヤスさんの心配そうな声に首を振る。
嫌じゃない。
嫌な訳ない。
私は維十が好きだから。
ちゃんと愛してるから。
だから、急な結婚だったけど、後悔なんてしてない。
ただ、
私の知らない間に、こんなにも大切にされていたことが、
嬉しくて、嬉しくて、、
嬉しくて涙が出た。