甘い唐辛子

「失礼します。」

そう言って障子を開けて入る。
親父は奥の方の座布団に座って、何かを書いていた。
眼鏡姿の親父は、いつもより穏やかに見えた。


「親父…」
「今はいい。ここへ座れ。」
「っ…はい。お父さん。」

普段、私は親父のことを『親父』と呼ぶ。
それは、親父が組長だからであり、父親だからではない。
でも、2人きりになった時だけ、私は親父のことを『お父さん』と呼ぶ。
2人きりの時ぐらい、組長という立場とか関係無く、父親として一緒にいたかったからだ。

それは親父も同じらしく、すんなりと受け入れてくれ、どちらかと言うと嬉しそうな反応を見せてくれる。

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