甘い唐辛子
「虎太郎、よく聞け。」
「うん?」
「難しい話だ。」
「うん。」
「私は、もうすぐこの家から出ていく。お前は、この家を、この組をこれから先、支えなければならない。」
「え?姐ちゃん、いなくなるの?僕、1人?」
泣きそうな顔の虎太郎を、柔く抱き、頭を撫でる。
なるべく優しい声調になるように話しかけた。
「いや、1人じゃない。組員がいる。姐さんも、親父もいる。私がいなくなるだけだ。」
「ヤダよぅ!姐ちゃんがいないのヤダよぅ!」
抱きついて泣き始める虎太郎。
私はどうしたらいいのか考えていると、誰かが来る気配がした。
廊下を擦り足で歩く奴は、私以外1人しかいない。
「霞澄ちゃん?いいかしら?」
姐さんだ。
虎太郎はその声にビクッと肩を上げ、涙のあとが残る顔で襖の方を振り返った。
スーッと開けられた襖から、高級で派手な着物に、アクセサリーの宝石が眩しい格好をした姐さんが、現れた。