甘い唐辛子
「あら、虎太郎。ここにいたのね。泣いちゃって…寂しくなったら、私のとこに来ればいいのに。」
普段、虎太郎の傍にいない奴が何を言うか。
虎太郎に信用されていないのが、わからないのか。
心の中で悪態をつきながら、姐さんに頭を下げた。
姐さんは襖を閉め、私に何も言わずに、向かいにあった座布団に座った。
「霞澄ちゃん、海堂の息子と婚約したんだってね。」
「はい。」
「それは困るわぁ。私のところに仕事がくるじゃない。私が仕事できないの、解っているでしょうに。」
姉御としての威厳の欠片も無い、姐さんの喋り方に、嫌気がさした。
「それは大丈夫です。姐さんが仕事に慣れるまで、私もお手伝いしますので。」
「んー…そうなのぉ?でも嫁いじゃった後が…ねぇ?」
「姐さんなら大丈夫です。」
「そお?もー…仕方ないわね。頑張るわ。」
深くため息を吐いた姐さんは、頬に手を当てて首を捻った。
姐さんの手には、指輪が何個もあって、おそらく全てが何十万とするものばかりだろう。