君という海に溺れる
揺れる草木もが、その歌声に酔いしれた。
アダムのよく透き通った声が風を伝って耳へ、脳へ。そして全身へ。
緩やかなスピードで優しく巡っていく。
(あったかい…)
あぁ、どうしてこんなにも。彼の音は暖かいのだろう。
彼が奏でる旋律は会話をしているかのように優しい。
彼が口にする言葉はそれだけで存在する意味を持つ。
目を閉じれば、この世界にはアダムの声しか存在しないような錯覚にさえ陥って。
この声が世界を作るのだと。
周りのあらゆる音が彼の為に存在するような、そんな感覚。
そしてそれはゆっくりと、しかし確実に私の背中を押した。
"頑張れ"と、"大丈夫だ"と言うように。
キリのいいところでその音色を止めた彼に、私は震えた唇を開く。
世界を包んだ音を信じて。