君という海に溺れる




私には、誇れるものなど何一つ無いような気がして。

息が止まりそうになる。


吐き出した弱音は本当に小さな音だった。

世の中の喧騒の中ではすぐでも掻き消されてしまうくらいに。


けれど、今この瞬間は二人しかいない静かな世界。

きっとアダムの耳には届いていたと思う。


その証拠に、彼の手が私の頭に触れた。

顔に似合わず大きくて骨張った手。

私とは違う、男の人の手。


アダムの指がゆるゆると私の少し傷んだ髪を撫でる。

そんな無言の優しさが固く結ばれていた私の唇を解いた。




「…わかってるんだ。醜いって」




こんな嫉妬は醜いだけだと。

私はいつまでも無い物ねだりで。
無いと嘆いては求めてばかりで。




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