君という海に溺れる




(アダム、が…?)




驚いた。

だって、私から見た彼は完璧そのもので。

彼を羨む人は星の数ほどいても、彼が誰かを羨む姿など想像すら出来なかったから。


驚きのままついアダムの顔を穴が開きそうなほど凝視してしまう。

そんな私に彼はクスリと笑みを溢し、その綺麗な唇を動かした。




「したよ」




──────────────コポ、



たった三文字。


そう言ったアダムの顔は今まで見たことがないくらい"人間"らしくて。

コクリと喉が鳴る。


その切ない瞳が、記憶の奥の姿と重なった。


『そんな顔しないで』という誰かの叫びとともに。




「俺ね、自分の顔とか声とか…大っ嫌いだった時があったんだ」




遠く景色をその目に映し言葉を紡いでいくアダム。



< 121 / 296 >

この作品をシェア

pagetop