君という海に溺れる




女の私が羨むほどに美しい顔立ち。

脳に響く甘い声色。

誇りだと言っても誰もが頷くであろうその魅力。


私では到底敵わないそれが彼のコンプレックスだったなんて、思いもしなかった。


しかし、紡がれたアダムの言葉は全て過去形で。

つい"今は違うの?"と言葉が口をついて出る。


その言葉に反応したアダムがゆるりと首を縦に振った。


細められた瞳に映る、幸せの七色。




「昔、ある人に言われたんだ」




"綺麗なのにどうして?"


"私、大好きだよ"




「その言葉に、救われた。今もずっと…救われてる」




そう言って彼は嬉しそうに頬を弛め口角を上げる。


初めてだった。

アダムが自ら自分のことを話すのは。




< 123 / 296 >

この作品をシェア

pagetop