君という海に溺れる




彼の中に確かに存在する時間。

それはきっとアダムにとってとても大切な記憶なのだろう。

その声が、表情が、瞳が踊るように物語っている。

私が憧れた色を奏でながら。




「その時初めて、自分を好きになれた気がしたんだ」




ふわりと花が色付くように。

花弁を開くように。

幸せだとアダムが笑う。




「だからハナ。出来損ないなんて言わないで」




その言葉と表情の優しさに、少しばかり綻びる私の心。

彼の隣に並びながら、同じように遠い景色を眺めた。


私も、好きになれるだろうか。

欠点ばかりのこの身体を。

アダムが幸せだと言ってくれた私を。




「大丈夫。止まない雨はないから」






雨の降り積もる場所。
(それは懐かしい匂い)




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