君という海に溺れる
結局、想いを伝えることもなかった恋。
その先を望んでいたわけでもなかった。
恋に恋していたような気分だったのかもしれない。
もうずっと、忘れてしまっていたけれど。
何年も同じ想いを引きずっていた気がする。
それが最後の"好きな人"だった。
記憶は美しいままだから。
彼の存在は当時のままで止まってしまっているのだ。動くことはない。
当時の彼は息苦しいこの世界に私を繋ぎ止める人。
どれほど息が苦しくなっても、確かに私は生きていた。
胸に渦巻く焦燥感に気づかないふりをして。
聞こえてくるあの日の歌に背を向けて。
この写真は恐らく私が唯一持っているあの人の写真だろう。
きっとこれ以外にはないと思う。