君という海に溺れる




「…こんな季節も、あったんだっけ」




そっと写真を指でなぞりながら呟いた。


あの頃に戻れたら、なんて無意味なことは思わない。

例え戻れたとしても、私は同じ選択をして同じ道を選ぶのだろうと思う。

そこには何の光もないと知っているから。

やり直せるとは思わない。




(…あぁ、だけど)




それでももし叶うなら、もう一度綺麗な色を見てみたいと願うだろう。


歪んだこの瞳では見えない色彩を。

もう思い出すことさえ難しい絵の具の色を。


あの頃のような綺麗な瞳で、アダムのいる景色を見てみたいと思う。


その景色は今よりももっと眩しく見えるのだろうか。

絵画のような、物語のようなあの空気はどんな色に見えるというの。




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