君という海に溺れる
「…ハ、ナ…?」
擦れた声で呼ばれた名前はどこか特別な響きをしていて。
ぶるりと、指先が震えた。
恥ずかしさとともに、ポッと柔らかな明かりを灯す胸の奥。
そんな胸の内を隠すようにコクリと頷けば、アダムの表情が綺麗に緩んだ。
優しく細められた瞳にぎゅっと締め付けられる胸。
込み上げてくる涙。
苦しさに押し潰されそうで。
呼吸さえ奪われそうだけど。
それ以上に嬉しくて。
彼の瞳の中に住むことが出来たなら、どんなに幸せなんだろうか。
同じ景色を同じ場所から見ることを許されたなら。
それ以上の幸せなんてあるのだろうか。
そんな歪んだ感情が顔に出ないことを願いながら、私はいつものようにアダムの隣に座り直した。