君という海に溺れる




本音だと、そんなにも眩しい笑顔で言い切ってくれるのだろう。


私の顔や言葉は偽りと建前で覆われていて。

誰も本音に気付くことはないのに。

時に、私でさえ一体何が本当なのかわからなくなってしまうのに。


それなのに、どうして。

どうして、アダムはそんな笑みを向けてくれるの。


言葉に出来ない感情が私の中を渦巻く。

込み上げてくる熱。

じわりじわりと視界を揺らして。

彼の姿が歪んでいく。


そんな私にアダムは困ったように笑いながら言った。




「やっと、雨が姿を見せてくれた」




"もう大丈夫だよ"



柔らかな微笑みがあの日の光景と重なる。


私はアダムと出会って以来初めて彼の前で泣いた。






破られる沈黙。
(その先に描かれる夢の橋)




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