君という海に溺れる




なんで。どうして。

そんな言葉ばかりが頭の中を巡る。


だってもうずっと、そんな笑みを向けられた記憶はない。

彼以外のその瞳を見たのはもう遠い昔のことで。

霞む景色の向こうで誰かの顔が見えるだけ。


予想していなかった彼の反応に混乱する頭。

そんな動揺する私とは対照的に、アダムは柔らかな笑みを浮かべたまま。


その瞳に映っている私はまるで壊れたマリオネットのようだ。

一度流れ出した涙は止まることを知らず次々と頬を濡らしていく。

拭わなければと伸ばした手はアダムの大きな手のひらによって遮られてしまった。


広がる沈黙。

夕焼けが静かに私たちを照らして。




「…何で本音だってわかるのか聞きたい?」




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