君という海に溺れる
「…早く来すぎたかもなぁ…」
ポツリと呟いた言葉。
声にするつもりはなかったのたが、思わず口から漏れてしまったらしい。
本当に小さかったそれは当然、誰に拾われることもなくあっという間に空気のなかに溶けて消えていった。
あたかも初めから存在などしなかったかのように。
(私も、そうなのだろうか)
怖いと思う反面、どこかそうなのかもしれないと納得する自分がいた。
ただでさえ時間通りに始まることなどないこの授業。
教授が十分以上遅れてくるのは当たり前。
加えて滅多に出席をとることもない。
とりあえずテストさえ切り抜ければ何とかなる。
それならもう一本遅い電車で来ればよかった、なんて。
頭でいくら思っても、そうすることの出来ない融通のきかない自分の性格を酷く憎いと思う。
口から零れ出た嘲笑に、ツキリと自らの胸を痛めた。