君という海に溺れる
幼い私には笑うしか方法が残っていなかった。
それは私の生きていくための術。
そうすることで周りが笑ってくれるのだと知ってしまった日から、今も変わることはない。
さわさわと風が木の葉を揺らす。
私が呟いた言葉を最後に、お互いに何かを発することはなくなって。
遠く聞こえる木々のざわめきだけが響いていた。
アダムの温度を横に感じながら私の目から溢れだす止まったはずの涙。
笑顔の代償となったそれは、仮面を壊してその姿を現す。
まるで、その雫を海へと返すように。
続く静寂。
それでも、この空間が居心地悪いとは思わなかった。
きっとそれは全てアダムのお陰。
何も言わずにずっと隣にいてくれた、彼のお陰。