君という海に溺れる




いつのことだったかは覚えていないけれど。

でも私は確かにその言葉の意味を知っていた。


それはあの歌とともに私を海へと誘って。


記憶の中のあの人が、笑う。

そして目の前の彼が微笑んだ。




「俺の笑った顔からは、ちゃんと"好き"が伝わってる?」




柔らかく、柔らかく。

紡がれた言葉にまた涙が出そうになる。


けれど今度は決して悲しい雨ではなくて。

救い上げてくれた彼の優しさが生んだ雨。


それは木漏れ日に包まれて海へ還っていく。



──────────────コポ、



一つずつ甦る忘れていた欠片。

体を駆け巡る呼吸音。


差し出された手のひらは、深い深い海底に降り注ぐ太陽の光のよう。

暖かい、希望の光。



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